「障害がある中学生は、小学生フロアの教室で勉強を!」―こんな学校を東京の杉並区は作ろうとしています―

 「障害児を普通学校へ、全国連絡会」という会の会報に載せたものです。杉並区は、障害がある中学生の人権、尊厳にいかに無神経かを、全国の人に知ってほしいと思って書きました。廃止される格子戸や「鉄製扉(引き戸)」の説明も最後に書きました。(考本敏子)

「障害がある中学生は、小学生フロアの教室で勉強を!」

―――こんな学校を東京の杉並区は作ろうとしています――― 孝本敏子

 私が住んでいる東京杉並区は、小学生と中学生を一つの校舎に入れる「小中一貫校」を高円寺に作ろうと、現在建設中です。この学校は、子どもにとっても近接住民にとっても問題が多く、住民は反対してきましたが、工事は強行され、2020年4月に開校予定です。

 この学校には特別支援学級が設置されます。「小中一貫校」なので、特別支援の小学生と中学生が同じ校舎に入ります。しかし、設計図を見てビックリ、標題にあるように、特別支援学級中学生教室が特別支援学級小学生と通常学級小学1,2年生のフロアにあるのです。つまり、特別支援学級中学生は中学3年間を小学生に囲まれてすごします。また、6歳で特別支援小学1年に入学した子どもは、15歳までの9年間を校舎の同じ一画で過ごします。これだけでも十分ひどい話ですが、他にもたくさん問題があります。

4階には通常学級中学生がいます。そこにはたくさんの中学生の姿、会話があり、中学生らしい掲示物もあり、いわば「中学生文化」があります。ところが障害がある中学生(特別支援学級中学生)はそこに教室はなく、2階に、小学生の只中に自分たちの教室があるのです。そこには同世代の文化はありません。障害がある中学生だけ、同世代から隔離されている――これは、障害者権利条約や差別解消法で禁止されている「障害に基づく差別―隔離、排除―」ではないでしょうか。

これは、形は「特別支援学級中学生教室の配置の問題」ではありますが、本質は「障害がある中学生の人権の問題」だと思います。他にも問題点をあげてみますと、

① 障害がある中学生は小学生フロアに自分たちの教室があるのですから、中学生としての尊厳が尊重されていません。

「尊厳が守られなければ自立なんてできません」、北村小夜さんからこのような言葉を戴きました。尊厳はこれほど大事なものなのに、杉並区は、障害のある中学生の尊厳など、一顧だにしません。

 区はなぜ「小中同一階」にこだわるのでしょうか。区は区議会で「特別支援学級の小中教員の情報交換・連携を密にするため」と答弁しました。「4階(特別支援中学生)と2階(特別支援小学生)に分かれると情報交換連携が密にできない」とはおかしな話です。こんなおかしな理由で中学生の尊厳がないがしろにされてよいのでしょうか。

② 体の大きい中学生が小学生フロアにいることを他の小中学生はどう思うでしょうか。「障害があるから、中学生なのに小学生フロアにいるのだ」と思ってしまいます。これは、差別です。しかし、残念ながら小学生フロアに中学生がいることは事実です。

 この教室配置は、子どもたちに(教職員にも?)障害がある人への差別意識をもたせてしまうのではないでしょうか。行政は差別意識をなくすよう努めなければならないのに、差別意識を生じさせるような学校を作ろうとしています。

では、4階中学生フロアにスペースはないのでしょうか――あります。中学生フロアには、予想中学生数に比して多すぎる教室があります。区も「物理的には可能」と区議会で答弁しています。物理的には可能なのになぜ?!

 今、区民有志で区教育委員会に、「特別支援学級中学生教室を中学生フロアに設置してください」という請願を出しています。近々請願審査があるでしょう。区教育委員会の、障害がある子どもの人権への考えが問われています。

この学校を作る人たちの人権意識の無さを示すものに「格子戸問題」があります。設計図には、2階にある特別支援中学生教室と小学1,2年教室の間の廊下に二つの「開閉式格子戸」がありました。筆者は8月にこれに気づき、区議会に訴え、9月の区議会で教室配置の問題とともに格子戸問題もとりあげられました。そのときの区の答弁は「格子戸は顔が見えるから隔離分断ではない」でした。区議会議員有志による、格子戸廃止の要望書も、教育委員会に出されました。

このような答弁ではありましたが、11月末に「格子戸はなくす方針」との表明が区からありました。その後、情報開示で得た「廃止される扉の一覧」を見たら、他にも特別支援区域に入る所と中央辺りに、廊下を塞ぐ二つの「鉄製扉」があったことがわかりました。まるで閉鎖病棟です。廃止されることになったとはいえ、特別支援学級立案者は何を考えているのでしょうか。「扉の廃止」が確実に実施されるよう見守らなければなりません。

 文科省は「共生社会」と言っています。杉並区も「共生社会」を否定しません。しかし、このような実態がある・・・。「言葉のすりかえ」がここにも、です。

東京杉並で、障害がある中学生の人権を侵害する学校が作られようとしています。まずは皆さまにこの事実を知っていただきたく、また、どうしたら障害ある中学生の尊厳が守られる学校にすることができるか、お智恵を拝借できれば幸いです。

(この文章は、「障害児を普通学校へ 全国連絡会」会報1月号に載せたものです)