教育委員会への請願「高円寺小中一貫校特別支援学級中学生教室を中学生フロアに設置することを求める請願」2018.12.12

考本さんは、2018年9月に、区議会(文教委員会に付託)に陳情を提出しました。今回は教育委員会に請願を提出しました。

 陳情では、生徒の実態や生活から、中学生フロアに中学生教室が無いことの理不尽さをのべましたが、この問題は、隔離排除、尊厳無視など人権の問題ですので、このような観点から述べました。障害がある人の人権に、教育委員会がどう判断するのか、注目しています。 尚、この請願を出す前(同日)に、高嶋伸欣さんが「請願をしっかり審査してください(一般的な問題として)」という請願を教育委員会に出しています。(考本敏子)

杉並区教育委員会教育長 井出隆安様           2018年12月12日

高円寺小中一貫校特別支援学級中学生教室を中学生フロアに設置することを求める請願
     高円寺小中一貫校特別支援学級中学生教室を中学生フロアに設置することを求める会
                            代表 孝本敏子
                           杉並区xxxxxxxx
 主旨
2020年開校の高円寺小中一貫校には、小学校中学校の特別支援学級が設置されます。新校舎の教室配置図から判断すると、特別支援学級中学生教室が4階の中学生フロアではなく、2階の通常学級低学年と特別支援学級小学生のフロアに設置されています。
 これは、以下の理由から、児童生徒にとって適切な教育環境とは考えられません。
 また、これは、「障害者権利条約」「障害者基本法」「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、差別解消法と記す)」にも抵触します。
特別支援学級中学生教室を4階の中学生フロアに設置することを求めます。

尚、2階〜4階の格子戸設置については、中止の方針であることが伝えられています。確実に実施されることを求めます。

この請願について、開かれた場で十分な審議が行われることを要望します。

理由1 この教室配置では、特別支援学級中学生が中学生としての尊厳を尊重されないこと
2階にある子どもたちの教室は、以下のようです。
    通常学級小学1,2年生の教室8室(少人数教室を含む)
    特別支援学級小学生教室4室(少人数教室を含む)
    特別支援学級中学生教室1室(1教室を2つに区切れば2室) 
小学生教室がたくさん並ぶ中に1室だけ中学生教室があり、特別支援学級中学生は、このホームルーム教室を本拠地として3年間の中学生生活を送ります。小学生の中で中学校生活を過ごすことは、中学生としての尊厳を尊重しないことです。
 中学生に中学生としての尊厳を尊重することは、自立への第一歩で、教育において大切な基礎です。

障害者権利条約24条1―a【註1】には、教育制度の目標として、尊厳を発達させることが書かれています。
中学生を小学生の中に置いて教育することは、障害者権利条約24条1-aに反しています。

尚、「『交流及び共同学習』があるから、尊厳が守られる」ということは、ありません。9月21日の文教委員会でも明らかになったように、「交流及び共同学習」は全面的なものではなく、学校生活の一部分だからです。そうであれば、子どもがどう扱われているか、尊厳が尊重されているかの指標は、この場合学校生活の本拠地=ホームルーム教室がどこに在るか、となります。小学生の中にあるホームルーム教室を本拠地として3年間を過ごさねばならない中学生が、中学生としての尊厳を尊重されていると言えるでしょうか。 

理由2
学校生活の本拠地であるホームルーム教室が、小学生の中に置かれている特別支援学級中学生は、同世代の中学生文化から排除隔離されていること。そのことにより、特別支援学級中学生は、同世代の中で育つという教育の基盤的な部分を欠くことになる。

学校は当然ながら、教育の基盤的部分を欠いてはなりません。
また、障害のある中学生のホームルーム教室だけが中学生フロアから排除され、小学生フロアに置かれており、これは権利条約2条【註2】に定める「障害に基づく差別」にあたります。
「障害に基づく差別」は、障害者権利条約第4条【註3】、障害者基本法第4条【註4】、差別解消法1条に反します。また、差別解消法7条(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)【註5】では、行政機関がその事業を行うときの差別的取扱いを禁じており、学校の教室配置が差別的取扱いであることは、これに抵触します。

◎「交流及び共同学習」があるから「排除隔離」ではないと言えるか。
  前述のように、「交流及び共同学習」は学校生活の一部です。学校生活の本拠地であり、大部分の学校生活を過ごすホームルーム教室が排除隔離されているので、一部分である「交流及び共同学習」があるから排除隔離が無くなる、とすることは論理矛盾です。

理由3 特別支援学級に小学1年で入学した子どもは、9年間同じエリアで過ごすこと
 特別支援学級に入学した子どもは、9年間を2階西側の一つのエリアで過ごすことになります。6歳〜15歳の児童期から思春期、心身共に飛躍的に成長する期間に、環境の変わらない一つのエリアで過ごすことは、子どもの成長を促す環境としてふさわしくありません。
◎ここでも、「『交流及び共同学習』があるから『9年間一つのエリアで過ごす』ことにはならない」とは言えません。『交流及び共同学習』は学校生活の一部分だからです。

理由4 通常学級の子どもに、障害ある子どもへの差別感を持たせる恐れがあること
通常学級の子どもたちは、特別支援学級中学生が小学校フロアにホームルーム教室をもっているのを見て、「特別支援学級だから、障害があるから、中学生なのに小学生フロアに教室があるのだ」と思ってしまいます。
障害をもつ中学生が小学生フロアにいることは事実ですから、残念ながらこのように思ったとしても不思議はありません。このように思うことは、障害ある人への差別感になりかねません。  
これは、「締約国は教育の中で障害者の権利を尊重する態度を育成する」という内容の障害者権利条約第8条2(b)【註6】に抵触します。

行政は学校教育においても、差別意識をなくすよう努めなければならないのに、公教育の中で差別感が醸成されることは、障害者権利条約、障害者基本法、差別解消法の精神に反しています。

理由5 特別支援学級中学生が小学校フロアに教室を持つことのメリットとデメリット
区は、特別支援中学生が小学生フロアに教室を持つことのメリットを、9月21日の
文教委員会で次のように答弁しています。
1、小中の教員間の連携、情報交換が密になる。
2、小中の子どもたちが調理実習等、一緒に学ぶことで良い効果が得られる。
小中が離れた場所にあるのならそうかもしれませんが、同じ建物内の2階と4階で1、と2、が困難になるという説明は、非合理的です。2については、特別支援小中学生が一緒に授業等をしたければ、中学生が4階から下りてくればよいのです。1については、小中の教員は特別支援学級の教員も含め、同一職員室です。担当教室が2階と4階に分かれていては情報共有が密にできない、とはどういうことでしょうか。1,2の理由は、小中が別の場所にある場合の話です。
 たとえ、区が主張するメリットが小中同一階によって得られたとしても、上記理由1〜5までのデメリット、条約や法律に抵触する人権にかかわる問題がありながら、1と2のメリットをとることが、行政の選択としてできるのでしょうか。

理由6 「特別支援学級中学生教室を4階中学生フロアに設置することは『物理的には可能』」
 9月21日の文教委員会で区は上記のように答弁しました。特別支援学級中学生教室を小学生フロアに置くことは、上記理由1〜5までの人権に関わる大きな問題を含んでいるのですから、物理的に可能なことは、実行すべきです。

現在、共生社会をめざすことは、社会のコンセンサスになっています。特別支援学級中学生教室を小学生フロアに置くことは、障害に基づく差別を禁止している障害者権利条約、障害者基本法、差別解消法に抵触し、共生社会の方向とは逆行します。
これから作る公共建築物ですから、共生社会の形成に資するものであることが必要です。
特別支援学級中学生教室を4階の中学生フロアに設置することを求めます。

格子戸の設置につては、中止の方針と伝えられています。
もし、格子戸が残されることになれば、「障害に基づく差別」となり、「障害者権利条約」「障害者基本法」「差別解消法」に抵触します。格子戸の廃止が確実に実施されることを要望します。
尚、2017年以後に出された請願は1件で、その審議の議事録を見たところ、十分な審議がなされたとは言い難い内容でした。請願の審議は、請願者への説明責任でもあります。十分な審議がなされることを要望します。
憲法16条の請願権を行使し、請願法に基づいてこの請願を提出します。

【註1】障害者権利条約 第24条 教育
1、 締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する。当該教育制度及び生涯学習は、次のことを目的とする。
(a)人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分発達させ、並びに人権、基本的自由、及び人間の多様性の尊重を強化すること。
【註2】障害者権利条約 第2条 定義
  この条約の適用上、
   ・・・(中略)・・・
  「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む)を含む。  
【註3】障害者権利条約 第4条 一般的義務
1、締約国は障害に基づくいかなる差別もなしに、全ての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進することを約束する。このため、締約国は、次のことを約束する。
・・・中略・・・
 (c)全ての政策及び計画において障害者の人権の保護及び促進を考慮にいれること。
 (d)この条約と両立しないいかなる行為又は慣行も差し控えること。また、公の当局及び機関がこの条約に従って行動することを確保すること。
【註4】障害者基本法 第4条 差別の禁止
何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。
【註5】差別解消法 第7条 行政機関等における障害を理由とする差別の禁止
行政機関等は、その事務または事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。  
【註6】障害者権利条約 第8条 意識の向上
 1-(a)障害者に関する社会全体(各家庭を含む)の意識を向上させ、並びに障害者の権利及び尊厳に対する尊重を育成すること。
 2-(b)教育制度の全ての段階(幼年期からの全ての児童に対する教育制度を含む)において、障害者の権利を尊重する態度を育成すること。