杉並区内の都市計画道路
計画を見直し、工事は中止を!!
とんでもないことがわかりました。
いま杉並区内で住民説明会や土地の測量が行われている都市計画道路の手続きは、憲法違反であり、都市計画法にも違反していることがわかったのです。
信じられないことですが本当です。
この重大な事実を「発見」したのは、明治学院大学名誉教授の熊本一規さん(70)です。中杉通りを五日市街道まで延伸する計画道路(補助133号線)に反対している成田東地区の住民が12月1日に開いた講演会で明らかにしました。
熊本先生は環境政策、環境法規などがご専門ですが、1970年代後半から全国各地の住民運動にもかかわるようになり、法律面から海の埋め立てや原発、ダム建設工事などにストップをかけてきた方でもあります。現在も山口県が進める上関原発のボーリング調査を止めている最中です。
どこがどう違反しているのか。先生の講演内容を要約します。
(1)都市計画法そのものに違反
①都市計画法の第16条の1項では、都市計画の案を作成する場合は公聴会などを開き、住民の意見を反映させることを義務づけています。
具体的にはどのように反映させるのでしょうか。
国土交通省作成の「都市計画の運用指針」は、こう指導しています。
「住民の合意形成を円滑化するため、計画案を作成する場合は住民参加の機会の拡大、情報公開、理由の開示などに意を用いていくべきである」
「公聴会の開催が真に住民の意見を反映するよう、公述人が計画案作成の担当者と質疑・議論を行うことも考えられる」
「住民の意見が都市計画案にどう反映されたか、都市計画審議会に報告することが望ましい」
しかし、区内の都市計画道路について公聴会が開かれた例はなく、住民の意見を行政側が聴取したり、具体的に反映したケースはありません。
②さらに同法の16条の2項では、より身近な地区計画を作成するに当たっては、条例の定めにより、地区の利害関係者の意見を求めたうえで計画を作成するよう規定しています。
これを受けて23区内では練馬、港、品川、墨田区などが、すでに都市計画についての条例や規則を制定していますが、杉並区にはまだ条例すらありません。
このように杉並区の手続きが、都市計画法の16条1項、2項に違反しているのは明らかです。
(2)憲法29条にも違反
憲法29条は国民の財産権を保障しています。公共事業などのために私有の土地や家屋などを用いるときは、財産権の侵害に当たるので、「正当な補償」をするよう定めています。
さらに国交省の「都市計画運用指針」では「都市計画法上の手続きは、国民の財産権が一方的に侵害されないよう担保するための最低限の手続きであることから、条例によって手続きを簡素化することは許されない」と記しています。
ところが杉並区の場合、簡素化どころか都市計画法を無視し、条例そのものを制定していません。
「区民の財産権を担保する」ことにはなっていないのです。
これでは区民の財産権の一方的な侵害を許してしまいますから、憲法29条違反ということになります。
(3)なぜこんなことに
1番の問題は、行政自らが都市計画法違反を長年続けてきたことです。
都市計画法には、新旧2つの法律がありました。
旧都市計画法ができたのは、100年前の1919年(大正8年)のことです。
この旧法では、都市計画は大臣の決定、内閣の認可を受けて告示・縦覧し、事業化することをうたっています。
しかし、都市計画の作成前に公聴会を開くことなどは一切盛り込まれていません。
こうした内容が法文化されたのは1968年(昭和43年)に新都市計画法ができてからなのです。
ここまで説明するとおわかりいただけるのではないでしょうか。
区内の都市計画道路事業の決定や変更の手続きは、100年も前にできて、すでに50年前に廃止された旧法に基づいて行われてきたのです。新法ではありません。
驚くべきことですが、これが事実です。
ですから東京都や杉並区は70年以上も前に決まった道路計画をもとに、対象地区で公聴会も開かず、いきなり工事測量を始めているのです。
新法成立後に決まった道路計画であれば、絶対に許されない手順です。
(4)行政側はどうすべきか
東京都がいまだに旧法を前提に道路行政を進めているのに対し、茨城県ではすでに新法に基づいたシステムを作り上げています。
同県のホームページを見ると、都市計画道路の原案ができた時点で公聴会や説明会を開き、住民の声を反映させる手順ができています。
工事着手後も一定期間内に完了しない場合は、県の再評価委員会で審議し、事業を見直す制度もあります。
①東京都も新法の精神に従い、速やかに都市計画道路行政に住民や地区の意見を反映させる制度を作るべきです。旧法をもとにした道路行政は事実上違法。これからも違法な行政を続けるのは許されることではありません。
②全国的には最近、社会情勢の変化を考慮し、工事が手付かずのままの都市計画道路を見直すケースが増えています。それなのに東京都だけがいまも事業化を進めています。時代遅れとなった道路政策は直ちに改めるべきです。
③杉並区も新法を守り、都市計画に住民の意見を反映させる条例や公聴会規則を制定すべきです。
④東京都と杉並区は長年の違法行政の責任を認め、こうした措置が終わるまで、計画を見直し、工事を中止すべきです。
(5)一方、計画地区の住民にとって大事なことは
今後、計画道路について行政側とやりとりする場合は、次の8点が大事です。
①行政側が、都市計画法にも憲法にも違反してきたことを指摘する。
②土地の測量や用地交渉には一切応じない。書類に印鑑は絶対に押さない。
③交渉は住民たちで組織する会を窓口とし、個別交渉には応じない。
④住民が同意しなければ事業は実施できない。住民は行政より強い立場にある。そのことをしっかり理解する。
⑤行政側による土地などの補償額は、任意交渉でも強制収用でも変わらない。
⑥交渉では行政側にごまかされぬよう法的根拠を必ず文書で示すよう求める。
⑦交渉内容を正確に記録するため必ず録音や写真をとっておく。
⑧自分の補償内容を知るには「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」の解説書を読み、勉強すること。
以上が先生の講演の要約でした。
講演終了後、会場の参加者からは数多くの質問がありました。
中にはこんな質問も。
「住民がいくら反対しても、結局は負けて、道路はできてしまうのでは?」
熊本先生の回答はこうでした。
「結果はわかりません。皆様次第です」
「まずは行政側の違法性を、広く大勢の人に知らせることが大事でしょう」
「あとは地区で印鑑を押さない人がどのくらいいるか、そこが1番のポイントだと思います」
「大切なのは地区の結束と横のつながり。計画道路反対で意見がまとまり、20〜30%以上の人が印鑑を押さなければ、行政側は強制的な土地収用もできません。そうなれば道路工事は止められるのではないでしょうか」
何人もの参加者がメモをとり、大きくうなずいていたのが印象的でした。
2019年12月5日
(淳)
今回熊本先生の講演内容を紹介しようと了解を求めたところ、先生から以下の文章が送られてきましたので付記します。
12月1日には、都市計画法60条の2が都市計画道路に適用される旨報告しましたが、その後60条の2は、同法11条5項に挙げられた面的開発にのみ適用されることがわかりました。お詫びして修正いたします。
しかしそのため、都市計画道路に関しては、新法下で決定された計画は、住民の意見を聞いて案を作る手続きを丁寧に踏まなければならないのに、旧法下で決定された計画は住民の意見を聞く機会を設けないまま事業化し得ることになってしまいますが、これは全く不可解なことです。
国交省「第5版 都市計画運用指針」には「法で定める手続きを省いた条例は憲法違反に当たる」旨記されていますが、とすれば「旧法下で決定された計画は住民の意見を聞く機会を全く設けないまま事業化し得る」としている新法自体も同様に憲法違反になると言えると思います。
熊本一規